「う、うわあぁ」
完全に熟睡していた僕は、突然伸し掛かられて大きな声を上げてしまった。
「あっ… 星史郎さんっ?! …な、なんです、か?」
星史郎さんは僕よりずっと背も高く、全体重を掛けられたら当然重い。
「Trick or Treat」
「えっ…」
「昴流君、Trick or Treat」
「どいて下さ、い… 本当に、重い……」
「何も下さらないんですか?」
ベッドサイドランプに浮かび上がる星史郎さんは、黒マントを纏って微笑んでいる。
「…な、に?」
「今夜はハロウィンです」
「は…」
「万聖節前夜。解り易く言うと西洋の百鬼夜行」
「百鬼って……」
僕は息を詰まらせ、星史郎さんの背中を叩いてやっと開放された。
「すいません、そんなに苦しかった?」
「全く… もう、どこから入ったんですか?」
「北都ちゃんが鍵を開けて下さいました」
「! …北都ちゃん?」
「昴流君はきっとお菓子なんか用意していないから、今夜はチャンスだと仰って。
ほら、衣装もわざわざ縫って下さったんですよ」
星史郎さんは得意気にドラキュラ風のマントを広げ、また僕の上に馬乗りになると
首筋に噛みつくようなキスをした。
「やっ、やめ…」