「昴流… あいつを許せるのか?」
図書室の外れの席で、神威と向かい合っていた時だ。
彼の真剣な眼差しに言葉が詰まった。
許すとか許さないとか、そんな問題はとうに過ぎていた。
ただ、これを人に伝えるのは難しい。
「それは… 終わってしまった事なんだ。いま何をしても、もう姉は帰って来ない」
暫く考えて、やっと出て来たのはこんなつまらない答え。
「お、俺が言いたいのはそんなんじゃなくて…
だからっ! お前がこれ以上傷付くのは嫌なんだよ」
こんなに心配してくれているのに…
でも-
「ごめん、今日は終わりにさせてもらうよ」
目の前の古典の教科書を閉じて立ち上がる。
「昴流…」
「上手く説明できないな… ただ、事実は揺るがない」
納得しかねるように見上げる神威の為に言葉を捜す。
「……例え過去に戻る事が出来たとしても、星史郎さんは、僕か姉のどちらかを殺す。
これだけは間違いないよ」
神威の頬から色が失われていくのがとてもつらい。
「いいんだ。 …ありがとう。 僕は大丈夫だから」
「昴流」
「テスト、頑張って」
それだけを言って、図書室を後にした。
心配してくれる神威に対して、もう少し言葉を選んでやれなかったものかと
後悔に似た何かが込み上げて来た。
許すとはなんだろう?
僕が誰を許すと言うのか?
星史郎さん?
それは違う。
そんな奢った考えは、端から持ち合わせていない。
一番罪深いのは僕だ
星史郎さんではない
その事に気付いたのは、北都ちゃんを失って、何年も経ってからだった。
僕が許さなければならない者がいるとするならば-
でも、それもまた難しい。
これは星史郎さんにも関係が無い
僕だけの問題