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自転車の女

買い物帰りの四月一日 『xxxHOLiC』





 その日の学校帰り、四月一日はいつもとは違うスーパーへ足を向けた。
朝、アパートを出る時に『鮮魚 産地直送 大サービス!』と書かれたチラシを郵便受けの中に見つけたからだ。
買ったのは何の事はない只の秋刀魚。
 しかし、旬の物に勝るご馳走はないと四月一日は思っている。これを炭火で焼いたら旨いだろう。
大根おろしに酢橘を添えれば、立派な肴にもなる。きっと侑子さんも喜んでくれるに違いない。

 自分が作った物を、人が喜んで食べてくれるのは嬉しかった。
明日の弁当の為に買ったお揚げは、帰ったらお稲荷さん用に煮含めておこう。
そんな事を考えながら、買い物袋を下げて交通量の多い幹線道路沿いへと足を向けた。
この通りの向こう側に、四月一日の生活拠点があった。
アパートも学校も、そして侑子さんのミセも。

 夕日を背にひとりで歩く。
自分の影が不恰好なほど長く、前へ前へと伸びている。
すぐ後ろで「チリン…」と自転車特有の警告ベルの音がした。

 振り返って見ると、青い花柄の服を来た女の人が自転車に乗っている。
四月一日はひょいと道の端に避け、彼女が行き過ぎるのを待った。
しかし、なかなか自転車は四月一日を追い越して行かない。
不審に思ってもう一度後ろを見ると、その女の人も自転車も忽然と姿を消していた。
道の片側は言うまでもなくガードレール。
もう一方は大きな会社か何かのコンクリート塀が、数十メートルにわたって続いている。
ほんの一瞬の出来事だった。あの僅かな間に、自転車が曲がれるような角は一切無い。



 四月一日は駆け出した。
走って走って、点滅している信号を強引に渡り切り、歩き慣れた道に駆け込んでも走り続けて、
もう駄目だと倒れ込みそうになった瞬間、腕を掴まれた。

「四月一日!」
 作務衣を来た百目鬼だった。
安心した途端に体から力が抜けてその場にへたり込んだ。

「……ど、めき」


「アヤカシか? 俺がいない時は、管狐を連れて歩けと言ってるだろう」
「う、う、うっせーよ。 関係ねぇだろうっ!」
 拳を振り上げて上を見ると、何を考えているのか分からないような百目鬼と目が合った。
「関係無くはないだろう」
 いつもと変わらない静かな声だ。
「百目鬼……」

 四月一日が寺の門に寄り掛かって足を投げ出すと、食い物を地面に置くなと呟いて、
百目鬼がスーパーの袋を拾い上げた。

「秋刀魚か。 明日の弁当は、これを蒲焼きにして持って来い」


 泣きたくなった。なんでいつもこうなのだ。






2006.10.04

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