『 俺はいま、何をしている? 』
駅を出てすぐ、祈津の携帯が鳴った。
『 どっちへ行けばいい? 』
ほんの数メートル前を歩いている智秋の声。
『 楽しそうに見える? 』
そう言って振り返った顔は、人波に呑まれて見えない。
『 俺は此処にいてもいい? 』
跳ねるように階段を下りて行く足が、
『 それとも何処かへ 』
次のステップを踏むことなく宙を飛んで、
『 行っ…… 』
時間が止まる。
その時だけは驚き、
ざわめき、
すぐに退いて行く人々の無関心。
手摺りを掴んだ左手と、智秋の手を捕らえた右手。
どちらがより熱く痛む?
「お前は、この手を離してもいいんだよ」
夕日を取り込んだ智秋の虹彩が揺らいで、
七色の光を一面に撒き散らす刹那。
2007.02.20