何処にも行かないんじゃない、何処にも行きたくないんじゃない。
何処にも行けないんだ、おまえがいるから。
雨の中を歩く。
初めはゆっくり、次第に早く。
段々激しくなって来る雨と俺の鼓動がシンクロして、
駆けるように早く打つ。
突然 ―― 顔を、頭を、肩を、胸を、叩いていた雨の感触が失せる。
味気ないビニール傘が差し掛けられていた。
彼はいつ、どこでこんな物を買ったのだろう?
「風邪をひきます」
ひいたって構わない。
「また、熱が出ますよ」
どうだっていい。
並んで歩く俺に雨はかからず、傘を手にしたおまえが濡れる。
2006.08.05