長い指が、眠りに落ちようとしている昴流の髪に絡む。
いつもだったら心地良いそれも、眠い時にはただ鬱陶しいだけだ。
寝返りを打って逃れると、背後で小さな溜息が聞こえた。
少し間があき、カチリと云う微かな音を伴ってベッドサイドランプが灯された。
つられてそちらを向くと、柔らかい光の中に星史郎の手が伸び
そこにある眼鏡と雑誌を取り上げるのが見えた。
以前は伊達でしかなかった星史郎の眼鏡だが、今かけているそれには度が入っている。
― 右目を失ったせいで、左目に負担がかかっているのかもしれない
そんな不安が胸中に芽生えると共に、ある事に考えが至る。
昴流は部屋の灯りを点けようと勢い良く起き上がった。
「慌ててどうしたんです?」
星史郎に腕を捕まれて、ベッドの上に引き戻された。
「星史郎さん! 暗い部屋で、本なんて読んではいけません。
手元だけを明るくしても、それは目に良くな…」
星史郎が手にしていた雑誌が音を立てて床に落ちた。
「昴流君が構って下さるのなら、こんなものを読んだりはしないんですが」
眼鏡を掛けた星史郎の端正な顔を前にして、昴流の頬が熱く染まる。
「ま、待って!」
キスされそうになるのを、手を突っ張って押し留める。
「…今夜の僕は、何をやってもダメ出しされてしまいますね」
「だって、このままでは… またフレームが歪んでしまうでしょう?」
そう言うと、昴流はそっと星史郎の眼鏡を外した。