「甘い物が欲しい」
祈津がそろそろ自室に下がろうと思った時、智秋がテーブル上の包みを取り上げた。
それは旭さんの家で行われるハロウィンパーティーに持って行く為、祈津が新宿のデパートで買い求めたチョコレートだ。
パーティー参加は‘仮装’が条件になっているが、お菓子を持参するならば、それはしなくても良いと言う。これは主催者の旭さんが、麻生や祈津を慮って決めた事だ。いい年をした男二人、どんな格好をしたって見られたものではない。
ハロウィンだけの特別仕様なのだろう、箱は鮮やかなオレンジ色の包装紙と黒いリボンで綺麗にラッピングされている。
それを智秋は躊躇う事もなく解き始めた。
祈津はパーティーに出なくても一向に構わないのだが、智秋に随って旭さんの家までは行かなければならない。初冬の寒空の下で智秋を待つのは、祈津にしてみれば大した事ではないけれど、旭さんは心を痛めるだろう。
あの少女の困った顔は見たくなかった。
「智秋さん」
「邪魔するな」
智秋は祈津の手を捕ると左右二本の親指を揃えさせ、黒いリボンでギュッと結んだ。
それは長く垂れ下がり、脚の間で頼りなく揺れている。
「おまえが食べるんだ」
唇に押し付けられたチョコレートを口に入れると、すぐに溶けて甘いプラリネが広がる。
「心配しなくていい」
二つ、三つ、と次々に入ってくるチョコレートで、すぐに口中はいっぱいになった。
「俺がひなちゃんを悲しませる訳ないだろう? 当日までに、同じ物をまた買ってくればいい。
だからこれは、いま二人で食べよう」
智秋が舐め取るようなキスでチョコレートを味わう間、祈津も智秋を愉しんだ。
今週中にもう一度、あの混み合った新宿のデパ地下へ出向かなければならない。
2006.10.23