思いも拠らない情動が体の中で渦巻いている。
―問題は複雑で曖昧。
答えは自分でも信じ難いものだった。
―それは馬鹿みたいに単純明瞭。
「暑いな。 どうした、気分でも悪いのか?」
気安く覗き込んで来る麻生の顔は、程よく日に焼けている。
直射日光に晒されると、不快な痛みを伴なって赤くなるだけの俺とは違い
彼は全てが伸びやかで健康的だ。
「暑気あたりか? ちょっと休んでろ。何か冷たい物でも買って来る」
麻生はそう言うと木陰に俺を残し、陽炎の立つ日差しの中に踏み出して行った。
彼は然様に快活で人当たりがよく、面倒見がいい。
正直過ぎて損をする事も多いようだが、それがこの男の長所でもある。
「飲め」
差し出された缶ジュースを受け取り、代わりに小銭を彼の手の中に落とす。
「このくらい、いいのに。 おまえって本当に律儀なのな」
俺の気持ちに気付いてしまったら、麻生はどうするだろう。
「祈津?」
二度とそんなふうに呼んではくれないだろう。
「ああ、大丈夫だ。 昨日遅くまで起きてたから……」
「二人一緒に合格したら、どこか遊びに行かないか」
「合格したら、な」
2006.08.16