僅かなクリスマス休暇を、マイスター達は地上で過ごす事になった。ミス・スメラギ曰く、これは4人の親睦を深め、チームワークを養う為の特別措置なのだそうだ。
始めティエリアは 「何故、休暇を地上などで過ごさなければならないのか?」と不満を露にしていたが、ヴェーダが挙げた選択肢の中にそれが含まれていた事と、何か言いたそうに視線を送って来るアレルヤに負けて溜め息混じりに頷いた。
王留美から提供された別荘は、AEU内の北部にあった。都市から遠く離れており、交通の便はお世辞にも良いとは言い難かったが、落ち着いた静かな田舎町は素朴で美しかった。そして何より、山ひとつ越えたところにスキー場がある為に、余所者がいても不審な目で見られる心配もなかった。
「おーい、刹那。 いつまで窓に貼り付いてんだ?」
暖炉の火熾しをしていたロックオンが声を掛けても、当の刹那は振り向きもしない。彼はここへ来るまでの車中も、ずっと外を見続けていた。
「珍しいんですよ」
代わりにアレルヤが、クリスマスディナーをテーブルに並べながら答えた。 それは王留美が抜かりなく手配してくれていた物で、冷蔵庫の中には温めるだけで食べられるパーティーメニューが、まだまだ詰め込まれている。
「ああ?」
「刹那はここへ来て、生まれて初めて雪を見たんだそうです」
「へぇ、そうか…… こんなもん、俺は見飽きてるけどなぁ。 どうだ刹那? 初めての雪の感想は」
「……白い。 それに冷たい」
刹那の答えにロックオンとアレルヤは顔を見合わせ、小さく笑った。
「当たり前だ」
ティエリアがあまり役に立っているとは思えない旧式エアコンの前に陣取り、コートを着たまま不機嫌な声を上げた。
「大気中の微粒子を核として氷の結晶が発生する。この氷の結晶を氷晶と呼ぶが、それを一般には雪と呼ぶんだ。 氷の粒だ! 冷たくて当然だ!!」
「だってよ、刹那ぁ~」
呑気に笑ってばかりいるロックオンに、ティエリアは向き直った。
「雪なんてどうでもいい。 それより、何故あなたはさっきから暖炉などと言う非効率的かつ前時代的暖房器具を弄ってるんです? そんな物より、こちらのエアコンの出力が最大になるよう、調整を……」
「そりゃー おまえ、本物の火の暖かさを知らない人間の言葉だな。 寒いんだったらこっちへ来てみろって」
「火なんて酸素の無駄遣いだ」
「地上では酸素の心配なんていらねぇの! すぐそこに広がる森林が、新鮮な酸素を豊富に供給してくれてんだ。 有り難く思え」
ロックオンは、まるで自分の手柄のように胸を張った。
「ハレルヤ、これじゃまるで子供の喧嘩だね。 ……ああ、そろそろ食事にする? メインディッシュはまだオーブンの中だけど、他は全部出来てるよ。 熱いスープを飲めば、きっと体も暖まる。 ね、ティエリア?」
アレルヤは暖炉に一番近い椅子を示し、ティエリアに席に着くよう促した。
「すぐだから、ここに座って待ってて。 刹那、ケーキを冷蔵庫から出してくれるかな」
ケーキと聞き、刹那はパッと窓辺を離れた。 来る途中に買ったブッシュ・ド・ノエルが、余ほど気になっているのだろう。
ロックオンが「メリークリスマス!」とシャンパンのフルートグラスを掲げるには、いま少し時間が掛かる事となる。
何しろ彼は、「……神なんていない」 「俺はヴェーダしか信じない」 などと言い張る2人の頑固者を、このあと黙らせなければならないのだから。 そしてまたアレルヤが、ローストターキーを見て恐れおののくティエリアのご機嫌を、どうやって取り結んだかなんて――
何はともあれ、Merry Christmas and Happy New Year!
ひとときの平和な夜をあなたと共に。
2007.12.22