グラハムの感情が足音に還元され、僕のいるMSドックの監督室に向けて高く響いて来る。
――なんとしてもフラッグでガンダムを倒す、と彼は言った。
上官の意向に逆らって新たな配属を断るなど、軍属としては有るまじき行為だ。
それ故、湧き上がって来る焦りに彼自身が苛立ち、その苛立ちを他人に悟られたくないと言うプライドが、
誇り高いグラハムをじくじくと苛む。
そうしてコントロール不能に陥った果てに、僕の元へとやって来るエースパイロット、グラハム・エーカー。
「カタギリ」
部屋に足を踏み入れるなり、碧の瞳が一刻の猶予もないと訴える。
彼は許せないのだろう。得体の知れない私設武装集団によって、護るべき国土を蹂躙され、愛すべき同胞を失った事が。
「もっと速く、強いフラッグを! 私に掛かる負荷など考える必要はない」
まるで子供のような言い草に、僕はいつも笑ってしまいそうになる。
「そうは言ってもねぇ。 パイロットが本当に潰れてしまっては、MSは動かないよ」
「頼む、君にしか出来ないのだ。 最高のフラッグを私に」
勿論だと宥めるように頷いて、機体を見下ろす窓の傍へと促してやる。
「突貫作業でやっている」
今の僕が君に進呈できる、最善にして最高のMSだ。
「私は我慢弱い」
そう言いながら、己を強く鼓舞し続ける君。
「知っているよ」
君が、誰よりも死を身近に感じとっている事を。
僕にだって譲れないものがあるんだ、グラハム。
闘いの中にあっても、君には君でいて欲しい。
だから僕は、決して堕ちる事のない機体を作ろう。
2008.3.17