指で中天を指し示すと、それを軸にして星空がぐるりと回転して手の中に消えた。
侑子はひと仕事終え、小さく息を吐く。
それと同時に控えめな拍手がし、振り返るとクロウがテラスに立ってこちらを見ていた。
「なにしてるの」
「相変わらず君は素晴らしいと思って」
彼は侑子の険のある声に動じることもなく、柔らかく微笑んでいる。
「貴方も少しは手伝いなさいよ」
言って侑子は、たったいま創りあげたばかりの球を投げ付けた。
それは丁度クロウの手の中に納まる程の大きさで、青味掛かった黒色の中に銀砂が浮かんでいる。
「ああ…… 乱暴に扱うから星が渦を巻いてしまったじゃないか」
半ば呆れたように溜め息をつくクロウを置いて、侑子は家に入った。
部屋は暖かく、甘い香りで満ちている。
「パイが焼けているよ」
クロウは追い抜きざまに宙空の珠を侑子の手に返し、キッチンへ消えた。
そういえば、昨日クロウは金の林檎を三つ持って帰って来た。
あれはこの為のものだったのか――
「ダージリンでいいかい?」という問いには、即座に「カルヴァドスよ」と返す。
見なくても、クロウが笑って肩を竦めるのが分かる。
クロウは自分用に淹れた紅茶と、侑子の為のポム・プリゾニエールの瓶をワゴンに乗せて来た。
手際よくアップルパイを切り分けると、ご丁寧にもアイスクリームまで添えてそれぞれの前に並べる。
「まったく、貴方はこんなものばかり」
「しかし、嫌いではないだろう?」
確かに、クロウは何でも美味しく作る。
「私は好きだよ、侑子」
クロウは告白でもするように優しく言った。
「大好きなんだ。 ……侑子、どうしました?」
こんな時、侑子は怒ればいいのか恥じらえばいいのか、いつも分からなくなる。
ただ重なった唇を、拒否出来ないのだけは自覚していた。