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萬秋楽

萬秋楽  まんじゅうらく
幸せな夜と朝





  「貴方と僕は、とても似ている」
  そう言ったら、貴方は笑いますか。

  僕を殺せるのは貴方だけで、貴方を殺せるのは僕だけ。
  だから、一緒にいたいと思うのでしょうか。

  二人に生きていて欲しいと言った北都の望みは、
  どんな形を指して言ったものだったのか…








星史郎は昴流に胸を押されて躰を離した。
下になっている昴流が、星史郎の胸に手をついて見上げている。
「昴流君?」
問いかけても、はっきりとした答えは返って来なかった。
昴流は一度だけ、何かを訴えるように首を振っただけだ。

「今夜はやめておきましょう」
そう言いながら、星史郎はそっと身を引いた。


あの事があってから半月以上になる。
昴流は一時、体調を崩してグズグズと寝たり起きたりしていたが、
今はもう通常のリズムを取り戻していた。

互いを必要としているのは明らかで、特に言葉を尽くさなくても
二人ともそれは了解している。
その感覚は、以前よりずっと強い。

だが夜に限って云えば
あれ以来、昴流がナーバスになってしっくりこないのだ。


「あの、大丈夫。  だから…  続け、て」
思ってもみなかった言葉に、星史郎は再び昴流の顔を覗き込んだ。
頬を赤くして、自分の言葉に恥じ入っている昴流と目が合う。

「…ごめん、なさい」
「昴流君が謝る事ではありません。」
そうは言っても、星史郎の口からは知らず苦笑が洩れ
それを見た昴流が、悲しい顔をして更に縮こまってしまった。


「じゃあ、こうしましょう」
手を取って抱き寄せる。
昴流の薄い背に腕を廻すと、それは始めからそこに納まるべく作られたように
ぴたりと填まった。
「…星史郎、さん?」
「このまま寝てはいけませんか?」
「このまま?」
星史郎の顎を昴流の髪が擽る。
「そう、このまま眠るんです」

昴流が腕の中でモソモソと動いて、星史郎を上目遣いに見た。
「でも、これじゃ星史郎さんが寝苦しいのでは」
「僕は一向に。 昴流君は?」
「僕は…」
耳まで赤くなったかと思うと、また星史郎の胸に顔を埋め
少しして「知らない」と、返事が返ってきた。


昴流の規則正しい呼気が眠気を誘う。

― ここまで来れば、もう大丈夫
そう思った時には、星史郎も眠りの縁にいた。








違和感を覚え、昴流は目を覚ました。
いつの間にか星史郎の腕を枕にして寝ていたようだ。
だから今、彼の寝顔がすぐ横にある。
昨夜は星史郎の暖かい腕の中で、二人の鼓動がひとつになるのを感じながら
満ち足りて眠りに落ちた事を思い出した。

そして目覚めた今、自分達が本当にあのまま眠ってしまった事に驚く。

間近にある星史郎の寝顔を見ながら、
こんな風に彼の顔を見るのは、初めてかもしれないと昴流は思った。
形の良い唇、高くて真っ直ぐな鼻梁を目で辿る。
星史郎はいつも昴流の顔を見て「可愛らしい」とか「綺麗だ」とか言うけれど
当人だって、精悍でとても整った顔立ちをしている。

半年も一緒に暮らしているのに、星史郎には隙がない。
だから貴重な一瞬を捉えた気がして、昴流は嬉しかった。


もっとよく、顔が見えるようにと身を乗り出した時
星史郎が目を開けた。

「お、おはよう、ございます」
慌てた声が昴流の口をついて出る。

星史郎は二度三度、瞬きをした後「お寝坊さんの昴流君に負けた」とひとりごち
そして改めて昴流に向って言った。
「おはようございます」

「僕に負けたって、なんですか? さっきまでは、あんなに可愛らしい
 お顔で眠っていらしたのに…」
「僕が、可愛らしい?」
普段、泰然としているだけに、思いっきり嫌そうに顔を顰める星史郎が可笑しくて
昴流は笑った。
「そうですよ。でも、もうあの星史郎さんは何処かへ行っちゃったみたいですね」


昴流はパジャマに袖を通し、カーテンを開けた。
晴れ渡った秋の空が眩しい。

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