「昴流君、もうそのくらいで…」
そう言って星史郎は御屠蘇の杯を取上げたのだけれど、少し遅かったようだ。
「もう少し、ね? 星史郎さん…」
昴流が今しも蕩けそうに微笑みながら、しな垂れかかって来た。
もちろん星史郎も悪い気はしなかったから
「仕方がないですねぇ… 可愛い顔をして」などと適当に応じつつ
宥めたりすかしたりを繰り返していると、昴流がふらふらと席を立った。
そしてすぐに何かを持って帰って来ると、星史郎の腿の上にストンと腰を下ろし
「星史郎さんも可愛らしくしましょう」と言う。
昴流が手にしているのは、化粧品会社が季節の変わり目に配る試供品のようだ。
「いつだったか、デパートで頂いたんです」
昴流は首を傾げながらパッケージを開けた。
「なんで僕に下さったのか、良く分らないんですけれど…」
「それは君が……」と言い掛けて、すっかり出来上がってしまっている昴流と目が合った。
まずいと思っても、脚の上には昴流がちゃっかり座り込んでいる。
こうなっては彼を押し退けなければ逃げられない。
そうこうしている内にも、紅をとった昴流の薬指が星史郎に迫って来た。
「昴流君!」
とっさに星史郎が顔を背けると、唇ではなく頬にぺたりとした感触がある。
「あーあ! だめですよ、星史郎さんたら…」
「だめなのは昴流君ですよ」と反論しても虚しいばかりだ。
昴流は声を立てて笑い始めると、その指を星史郎の頬の上でぐるりと動かした。
酔っぱらいは始末に負えないなどと悠長に考えている内にも、反対の頬にもぐるりと描かれる。
「星史郎さんも、すごぉく可愛いですよ」
―昴流くんが星史郎さんを襲う―
なるとほっぺの星史郎さんの巻