あれはまだ、小学2~3年生くらいの頃だったと思う。
パタンッと大きな音を立てて本が閉じられた。
「こんなお話しはキライよ!」
いま北都ちゃんは、ふっくらとした可愛い頬をリンゴのように紅潮させている。
だから僕にも、彼女が本気で怒っているのが分った。
「昴流が面白かったって言うから読んだのに!」
目の前に突き出された本は『青い鳥』だ。
それは確かに昨日までは昴流が読んでいた本で、良いお話だと思って北都ちゃんに貸したものだった。
「どうして? 北都ちゃん。 いろいろな国を巡って青い鳥を探すの、面白くない?」
「途中までは面白かったけど…」
「けど?」
「私は世界中で一番不幸せになっているから、それを目印に捜して。なんて、絶対にイヤよ!」
なるほど、いかにも北都ちゃんらしい。
「じゃあ僕達が別れ別れになってしまったら、何を目印に捜そうか?」
「そうねぇ…」
北都ちゃんは人差し指を、小さく赤い唇に当てて考えている。
「私、世界中で二番目に幸せになっているわ!」
「二番目?」
「そう! 一番は昴流に譲ってあげる」