隣にいるティエリアが、苦しそうに寝返りを打って背を向けた。彼がこうしてうなされているので、アレルヤは一旦醒めてしまった眠りの中に戻る事ができずにいる。それ自体は全く苦にはならないのだが、これでは眠っている方のティエリアが消耗してしまうのではないかと心配になった。
体をを捻るようにして覗き込むと、ティエリアは情交で乱れたシーツを握り込み、柳眉を顰めている。
そっと額に触れる。
薄らと汗をかいているが熱はない。
「ティエリア」
睫が震え、ピジョンブラッドの瞳が月明かりの下に現れた。
「なん、だ?」
「起こしてごめん。 寝苦しそうで、とても見ていられなかった」
「そう…… 悪かったな」
彼が起き上がったので、今度はアレルヤが見下ろされる格好になった。
「何が?」
「俺のせいで眠れなかったんだろう」
「ああ、そう言う事か…… それは気にしなくてもいいよ。 僕は構わない。 君がつらそうにしている方が厭だ」
アレルヤの言葉にティエリアは少しだけ首を傾げ、「変な奴だな」と呟いた。
変なのはティエリアの方だ。地上は嫌いだと言い、いつだって一刻も早くトレミーに帰りたがる。
誰もがみな、伸び伸びと眠れる広いベッドを好むのは必然で、それは休暇を心待ちにする理由の一つにもなっていると言うのに。
第一、無重力用のシュラフでは今夜みたいに抱き合えない。
「どうしてだろうね、ハレルヤ。 ……僕には彼が分からないよ」
重力がある地上だからこそ、互いの体の重みを感じられるんだと思わないかい?
「人が分かり合えると思っているのか」
ティエリアが立ち上がった。
「君とはそうしたいと思っているよ」
そう応えるアレルヤを鼻で笑い、ティエリアは服を身に着けはじめた。
すこやかに伸びた彼の背は、まるで愚かな人類の立つこの世界を拒絶しているかのようだ。
「何処へ行くの?」
「俺がいると、おまえが寝不足になる。 明日のミッションに差し障りが出ては困るだろう」
「僕が傍にいて欲しいと言っても?」
アレルヤが手を引くと、バランスを崩したティエリアの体が落ちてきた。
二人分の体重にベッドが沈む。
「……子供だな」
「何とでも」
舌を絡める深いキスに、収まっていた情動が再び頭をもたげる。
「僕が死んだら、たまには思い出してね。 ……ティエリア、聞いてる?」
「そうして欲しいのなら」
ティエリアの手が内腿を撫で上げ、昂ぶったものに触れる。
「俺が死んだら、その日の内に全部忘れて欲しい」
醒めた物言いに、アレルヤは胸を衝かれた。
「ハレルヤ…… 彼はまた、僕に無茶を言う」
「死んだ人間を想い続けるのは……」
ティエリアが、少しだけ体を離してアレルヤを繁々と眺めた。
「なに?」
「なんでもない。 要は生きて帰ればいいんだ」
「うん、そうだね」
そうしたら、また抱き合えるものね。
2007.10.25