いつものファミリーレストランで、ひなちゃんが俺の向いに座ってケーキを食べている。
そうして今日の出来事を話してくれるのは、もう二人の習慣になりつつあった。
「それで、とーこちゃんがね…… あっ、ともくん、とーこちゃん知ってるよね?」
「ええ、一度だけお会いした事がありますよ」
そう答えると、ひなちゃんは大きな目をきらきらさせ、身振り手振りを交えて話し続ける。
「そうだよねっ! そのとーこちゃんがね…… 」
本当に可愛らしくていい子だと思う。
ひなちゃんなら、きっと史朗を幸せにしてやれるだろう。
「………あの、ともくん? ごめんね、あたし、うるさかった?」
「いいえ、そんな事はないですよ。 それでは、燈子さんはさぞ大変だったでしょうね」
「うん、そうなの! でもとーこちゃんは強いんだよぅ~ それからね……」
俺の傍には祈津しかいない。
だからこうして、ひなちゃんの他愛もない話を聞くのは好きだった。
「そうだ! 麻生さんから手紙が来たんだよ」
学校での話が一段落すると、ひなちゃんは宛名の他には何も書いていない絵葉書を取り出した。
あまりの素っ気無さに俺が失笑すると、ひなちゃんが慌てて言い訳を始める。
「あのね、麻生さんは忙しいから、何も書かなくていいって私が言ったんだよ」
「ひなちゃんはそれでいいんですか?」
「うん、麻生さんが元気ならそれでいいの。 ね、きれいな町だよねー 」
ひなちゃんは嬉しそうに言うけれど、俺はその古い町並みの写真に史朗を重ねる事は出来ない。
こんな遠くにいないで、早くひなちゃんの元に帰ってくればいいと思うだけだ。
それでも‘麻生史朗’とサインされた小さな文字に触れると、少しだけ暖かくなる気がするのはなぜだろう。
「ひなちゃん…… これ、祈津に見せてやってもいいですか?」
「もちろんだよぅ。 祈津さんと麻生さんはお友達だもん!」
にこにこ笑いながらケーキを食べるひなちゃんを前に、携帯を取り出してリダイヤルを押す。
いつものように1コールで繋がった。
―― 祈津、すぐに来てくれ
2005.12.27