少し苦しそうに、眉根を寄せた表情が良いのだと言う。
そんな自分の顔は見た事もないので、昴流には返事のしようがない。
だから
「して」
とだけ言った。
要求はいつだって、すぐに満たされる。
尤も、昴流が星史郎に何かを要求する事自体が稀だけれど。
ジェルで濡れた手に後ろを探られ、昴流の喉がひゅっと音を立てた。
「痛いですか?」
「痛く、ない。 いい」
「こう?」
「ん… そう」
「堪らない」
「なに、が?」
「かわいい。 君の顔」
「ふっ… んんっ! 嬉しく、なっ」
「なんで?」
「っ… やぁ」
「でも、かわいい」
「や、だ」
星史郎の舌に耳の中を擽られ、逃げるように身を捩る。
するとそのまま肩を押され、体を返された。
あっという間に右腕を後ろに捻り上げられる。
「いっ… やだ」
「好きなくせに」
「や… ぁ」
「もっと?」
「ん… ぅん」
「どうして欲しいの?」
「…して」
「何を?」
「星史郎さんの、好きな事」
「いいんですか?」
「いい …して」
好きにしていいと言っても、傷付けられたり、本当に酷い事はされた事がない。
戯れに押さえ込まれていた手も、すぐに解放された。
力を抜いて、全てを任せて、星史郎に合わせていれば良かった。
それだけで、望むものは与えられる。
その後の記憶は曖昧で、過ぎる快感に息が詰まり、
何度も駆け上がって、その度に目の前が真っ白にスパークした。
我に返ると、優しい顔がすぐ側にあった。
大きな手が子供をあやすように、髪を撫てくれている。
「さあ、答えて。 昴流君」
僕は何を聞かれているんだろう?
言われてみれば、ずっと何かを問われていたような気もする。
「…な、に?」
「人が幸福である事と、不幸ではない事の違いです」
― 幸福である事
― 不幸ではない事
「それは…」
まだ覚め切らない頭で考えてみても、そのふたつは明らかに違う。
違うけれど…
「昴流君は、どちらが幸せだと思いますか?」
そもそも、その2つは較べられるのだろうか?
「人は不幸より、幸福を望みますよね?」
「…ええ」
「昴流君も?」
僕も?
「教えて下さい」
今まで、それを望んだ事はあっただろうか?
「…わかりません」
「では、幸福になって下さい」
「なぜ?」
「僕にはそれが、わからないから」
この人が望むなら、答えよう。
「いま僕は、貴方といて幸福ですよ」
でもそれは、不幸ではない事と、違うかもしれないけれど…