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『すき。だからすき』 『東京BABYLON』 『X』 『ガンダム00』 等のよろず二次創作倉庫です。

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L'amour fond comme la neige

10000カウントのお礼。




          淡灰色の空から降る雪が、色を失った海へと消えていく。
          大気は凍り付いて風もない。
          聞こえるのは、足元に寄せる波の音ばかりだ。


             ― また誕生日が来るよ、北都ちゃん



          海に吸い込まれていく、幾千、幾万の白い雪を見ていて
          昴流は軽い眩暈に襲われた。


          こんな日の空と海はとても似ている。

          水平線を挟んで向かい合っているそれは
          まるで双子のようだ。






すぐ傍でライターの音がして、昴流は我にかえった。
星史郎が煙草を手に、こちらを見ていた。

―そうだ、いま僕は、この人といる


「寒くないですか」と問う、星史郎の声は優しい。

ひとつの答えを得るために、決して短くはない時間を
この人を探す事に費やした。
そして答えが見出せないまま、一緒に時を重ねてしまっている。


「僕にも一本下さい」
昴流がそう言うと、彼は咥えたばかりの煙草を寄越した。

「君が煙草を欲しがるなんて、珍しいですね」

星史郎は少しだけ笑い、もう一本取り出すと
昴流の煙草から火を獲った。


煙は空に昇り、雪は落ちて海に溶ける。


「そろそろ行きましょう、昴流君」

去り際に振り返ると、本格的に降り出した雪で
空も海も遠く霞み、そこに境界を見出すのは難しくなっていた。







「具合でも悪いのですか?」

揃って車に戻ったところで、星史郎に聞かれ、
昴流は反射的に「いいえ」と答えた。

本当は、眩暈が続いているような感覚が去らずにいたのだけれど
彼に心配を掛けたくなかった。

「お顔の色が悪いですよ。 気分が悪いのでしたら、言って下さいね」

「大丈夫ですよ」

大丈夫、今度は笑って答える事が出来た。






     今朝、昴流が海を見に行くと言い出した。
     見れば外は霙混じりの雨だ。
     「行こう」という誘いではなかったが、朝食の後
     当然のように、自分も出掛ける支度をした。

     昴流は海に着いても喜ぶ風もなく、雪に変わった空を二時間ほど見ていた。
     その間、僕も彼を見ていた。

       そうして昴流を見ながら、少女のようだった母を思い出した。
       母を手に掛けたのは、やはり雪の日だった。

       ― 好きよ、星史郎

       そう言って雪の上に散った母は、とても綺麗な人だった。


     海を見ながら、二人並んで煙草を飲み、帰って来た。
     行き帰りの車中も、何も話す事は無かった。



     人と物の違いが明確でない僕にも、昴流が何を考えているのか
     推察するくらいの事は出来る。
     そうしても構わないだろう。
     僕たちを隔てるものは、曖昧に霧散してしまったのだから。

     しかし昴流の考えている事を、僕が知ろうとするのは
     意味の無い事だと解っている。

     彼は、僕ではない。

     昴流の痛みは、彼のものでしかない。
     考えたところで、それは僕の想像の域を出ない。












ベッドに入ってから随分たつのに、昴流は寝付かれないらしく、
溜息をついて寝返りを打った。

星史郎がその様子を伺っていると、昴流もそれに気付き
囁くような声で星史郎の名を口にした。

「…星史郎さん」

善い声だと、いつも思う。

「眠れないのですか?」

「起してしまいましたね」
「いいえ、僕もまだ眠っていなかった」


「星史郎さんは… 何も、聞かないんですね」
「あなたのお話しでしたら、僕はいつでも伺いますよ」


「降る雪を見ていたら…」
「雪?」
「雪は空から落ちて、海に溶けるだけなのに…
じっと見ていると、まるで海の方がせり上がっていって
空を飲み込もうとしているようで… 」

「ええ、分かりますよ。 そう云う錯覚に陥る事もあるでしょう」

「それで、怖かった… 」


 ― 嘘だ  それだけではないだろうに




「星史郎さん、そちらへ行っても… いいですか」

先程よりも更に小さな声。
昴流からの誘いは珍しい。

「構いませんが、どうなさったのです?」

「僕が、あなたを… 求めてはいけませんか?」
「いいえ、そんな事はありませんよ。 でも― 」

「でも?」

故意に間を空けて出された答えは、
昴流が思い描いていたものから掛け離れていた。



「昴流君が僕をその気にして下さるのなら、抱いて差し上げます」






気まずい沈黙に、意地悪が過ぎたと星史郎が考えた時、
意を決したように昴流が起き上がった。

パジャマを脱ぐ衣擦れの音がして、
灯りを落した部屋の壁に、昴流の影が映る。

星史郎の隣に、全てを脱ぎ去った昴流が滑り込んで来た。

「これで、いいですか?」
行動とは裏腹の頼りない声。

「昴流君、あなたらしくないですね」
星史郎が諭すように答えると、今度は強い口調で反された。

「どうしてあなたが、僕の事を僕らしくないと決めるのですか」

星史郎より先に、昴流自らが上に覆い被さって来る。
唇を合わせるだけの軽いキスの後、耳の後ろを強く吸われた。

「どうしたんですか。 何か…」
二度目のキスで口を塞がれて、星史郎も諦めた。


それならば、好きにさせてみようと。






昴流の慣れない手が、星史郎を脱がせに掛かる。

初めて享受する、受身で待つ快さ。


少しずつ躰を降りて行く、昴流のぎこちない愛撫とキスは
結果的に星史郎を焦らし、二人の間に熱を生んだ。

自身を口に含まれ、指と舌で刺激される。
最後に唇に締め上げられて達した時、星史郎の口から僅かに息が洩れた。


「昴流君、こちらへ」
そう言って手を差し伸べると、昴流が脚の間から顔を上げ
濡れた口を手の甲で拭うのが見えた。
彼でもこんな顔をする事があるのだと、その清冽な美しさに驚かされる。

「僕の名前を呼んで」
「…星史郎さん」
昴流に縋り付くように抱き締められ、星史郎は昴流の熱い頬に唇を押し当てた。

「好きだと言って下さい」
「好きです」

「続けて」

星史郎は素早く躰を入れ替え、昴流の手を彼の小さな顔の左右に留め付けた。
「なっ…」
昴流の目が、戸惑いに揺れている。

「続けて、昴流君」
「…星史郎、さん?」

「その気になったんです。 好きと言って」






               昴流の手足から力が抜けて
                       切れ切れの声が紡がれる

                   好き… ぁ、あっ   すき 星史郎、さ… 好き

               ― かわいい昴流君、僕も君が好きですよ

                   せいしろう、さん…

               ― 好き? こうされるのは好きですか?
                                 答えて、昴流君

                   いっ… やぁ

               ― 昴流君、答えて

                     す、き…  好き、星史郎さん

                          すき すき すき すき すき すき……

                      …好き

                   せいしろうさん…










     昴流を得て、むかし母が僕に言っていた言葉の意味が、ようやく解るようになった。

     ― 好き

     僕は昴流が好きだ。
















          空と海はとても似ている
          水平線を挟んで向かい合っているそれは
          まるで双子のよう

          どちらが姉で、どちらが弟なのだろう…


          星史郎さん、僕はどちらだと思いますか?



           ― 雪は落ちて海に溶ける









星史郎さん、好き… 













                                                 





   10000のカウントのお礼作品を、尊敬するSAKURAさんに捧げる事が出来て光栄です。
    (それがまた、プレッシャーでもありましたが…)
   頂いたお題は「雪」でした。  大人向け作品なのは、私の趣味&独断です。

   SAKURAさん、拙いものをお受け取り下さり、どうもありがとうございます。
   これからも、どうぞ宜しくお願い致します。


   タイトルの L'amour fond comme la neige (仏語) は、
   直訳すると「愛は雪のように溶ける」でしょうか。
   日本語にすると恥ずかしいですね。 センスなくて申し訳ありませんっ

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