忍者ブログ

E + L

『すき。だからすき』 『東京BABYLON』 『X』 『ガンダム00』 等のよろず二次創作倉庫です。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

承和楽

承和楽  しょうわらく
もう幾つ寝ると……




毎年、年末年始は忙しかった。
でも今年は違う。

昴流は温かい部屋で、窓の外の降る雪を見ながら
昨年までの年の瀬の事を、取り止めもなく考えていた。

この時期は、陰陽師が一年中で一番忙しいと言っていい。
昴流自身も、子供の頃から京都と東京を何度も往復していた。
冬休みの宿題も、新幹線の中でしていたのを思い出す。

―今度の大祓えと四方拝は、誰が務めるのだろう?
 もう、祖母には無理だろう…


そこまで考えた時、玄関の方から大きな音が聞こえて来た。

「星史郎さん?」
廊下に出てみると、星史郎が大きな荷物を運び込んでいる。
「あれ、昴流くん? 今日は、お出掛けだとばかり思っていました。
 …ああ、ではちょっと、手伝って頂けますか?」
「はい」
「まだ、車に残っている物があるので取って来ます」
星史郎はそう言って、踵を返した。

手渡された荷は、結構な重さだ。
それを取り敢えずリビングまで運んで、ダンボール箱の印刷を検めてみる。

こわれものシールの横に≪家具調炬燵≫と印刷されていた。

開けて良いのか迷っていると、更に大きな荷物を持った星史郎が帰って来た。
「コタツ、ですか?」
「ええ、やはりお正月はコタツでみかんでしょう?」
「はぁ…」
世間のお正月は、そう云うものなのか…


「丁度、和室も空いたままですし。 あっ、それは重いから、後は僕が運びます」
そう言うと星史郎は、てきぱきと和室に荷物を運び、梱包を解き始めた。
「あの、こっちも開けましょうか?」
「お願いします。 先ず、敷物を部屋の中央に広げて下さい」
「あ… はい」
大きくて柔らかな包みからは、コタツ布団の類が出て来た。
「えっと、敷物って、これですか?」
「そうそう、それです。 次は…」

星史郎は昴流に指示を出しながら、コタツをあっと言う間に組み立てた。
「なかなか良い感じではありませんか」
満足そうな声に視線を上げると、星史郎が笑っている。


梱包材を星史郎が片付けている間に、昴流は天板を拭いてスイッチを入れた。
「暖かい…」
「はい、昴流くん」
戻って来た星史郎から渡されたのは、とても綺麗な色のみかんだ。

「星史郎さん、お正月はコタツでみかんと決まっているのですか?」
「実は、僕もよく知らないんですけどね。 定番らしいですよ」
「そうですか…  うん、ダイニングで食べるより、コタツで食べた方が
 美味しく感じますね」

目が合うと、二人揃って自然に笑みが零れた。

「明日はテレビも届きますから、お正月はこの部屋で
 ウィーンフィルのニューイヤーコンサートを観ましょうね」
「それも定番なんですか?」
「さぁ、よく分りませんが…」
「なんだ、星史郎さんも、何も知らないんじゃないですか!」
「いいんですよ、楽しければ」

星史郎さんと二人でお正月を迎えるなんて、想像した事もなかった。


いつの間にか、ベランダの手摺りに雪が積り始めている。

―おばあちゃん、ごめんね。

胸の内で呟くと、二つ目のみかんが手渡された。
「ありがとうごさいます、星史郎さん」


―僕は今、とても幸せです。





--------------------------------------------------------------------------------


補足です。 作中で説明できなくて申し訳ありません。 (汗;)

*大祓え
六月と十二月の晦日に行われる祓えの神事を指します。
犯した罪や穢れを除くために行われます。
六月に行われるものを夏越(なごし)の祓え、
十二月に行われるものを年越しの祓えと言います。

*四方拝
日月星辰を拝して、皇室および天下安泰を祈った祭りです。
元旦に行われます。
四方拝の四方とは陰陽道の四神(玄武・青龍・朱雀・白虎)
であると言われています。

拍手

PR

サイト内検索

メールフォーム

管理人

HN:
月代 薫
性別:
女性
趣味:
読んだり書いたり

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]